2020年2月25日火曜日

僕がアクターズスタジオの最終試験3日前に招待されて合格した理由


人間は、死力を尽し全力で何かに立ち向かった時、神からの授けものインスピレーションがやって来るのだと思う。

インスピレーションと云えば、私ごとになるが、昔ニューヨークに住んでいた頃の話。
ザ・アクターズスタジオのオフィスから、最終試験を受けるように言われた。
(最終試験に招待される俳優は滅多になく、スタジオの永い歴史上、無名の俳優が合格したのは皆無だと言われる)

普通、最終試験にたどり着くのに4,5年掛かるのに、冗談でなく試験日の3日前。
(これまでに、スタジオで演出と演技を高く評価されたのが要因だと思う。当時、年間1,000人以上の受験者の内、最終試験の合格者は1人か2人。)
YES、と言って、今、考えると無謀にも一歩前に出た。

相手役には、当時の雑誌の表紙に彼女の美しさは心の美しさと紹介された北欧の美人アルバが、協力してくれた。
(スタジオには美人が少ない。一切容姿で取らないから。マリリン・モンローとアルバは例外。)

3日間のリハーサルは無残。

何1つ掴めないまま過ぎてしまった。

当日、僕は、不安から試験の5、6時間前に行ってしまい、スタジオの片隅でジット蹲っていた。

アルバが巫女のように僕の前に立ちはばかり、興奮した他の俳優達が僕に話し掛けるのを防いでくれた。

無味乾燥な時間が刻々と過ぎて行った。

徹底して追い詰められた。

苦しかった。

その時ふと、ある考えが浮かんだ。

僕は、何故、ここで、こんなに苦しんで待っているのだろう。

勿論試験を受ける為だ。

しかし、僕の演じる役は、何故、こんなに苦しんで待っているのだろう?

そこから、想像力に火がついた。

僕が、演じる役は、映画『さよなら』からの歌舞伎俳優の役。

役の世界に入り込んで、自分と役がひとつになって行った。

役、つまり僕は、先週、これが芸術のあるべき真の姿だと確信して新しい形を舞台で精一杯表現した。

上司達は其れが気に入らなかったらしい。

今日は給料日、上司は(審査員)は、一人一人名前を呼び、呼ばれた者は、2階のホールに上がって行く。

ほおら、又一人降りてきて,また一人呼ばれて上に上がっていく。

僕は幹部俳優なのを知っているのに、彼らは延々と僕を待たしている。
時間も、4時間もだ!

役の人間としても、僕自身としても、こんな所に1分も居られない。

ドアを蹴破って出ていって二度と戻る気はない!

しかし、妻が病気で入院している。

今日どうしてもお金を持っていかなければ!

僕の想像力は、高く、遠く羽ばたいていった。

その当時までには、かなりの演技力を体得していて、一生に一度か二度しか体験した事のない、深い悲しみの感情を、意識的にこの場で起させることが出来るようになっていた。

その事件に集中し始めると、すぐさま強烈な感情がやってきた。

(前々からストラスバーグに、ゼンは非常に強い感情を持っていると、指摘されていた。僕が怒りを爆発させると、7、8人の屈強な男たちが舞台の外へ逃げて行くのをこれまでに何度も経験した。不思議に思った。俳優は命なんか要らないやと思わなければ相手を動かせないと思っている。)

その感情を確かめる為に、ふっと息を吐くと胸が焼け、ドラゴンが火を噴いているようだ。

普通このような激情をキープできるのは15分だと言われる。

しかし、僕の名前が呼ばれるまで、30分以上待たなければならない。

苦しかった。

感情が消えてしまわないようじっと耐えつづけた。

名前を呼ばれ階段を駆け上がった。

「ゼン・ヒラノ」と叫んだのを今も記憶している。

想像のドアを両手で横に押しひらくとニューヨークの僕のアパートの黄色味がかった床がみえた。
(プライベイト モーメントと云う訓練のお陰で、自分以外に誰もいないと云う感覚がやってきた。)

ドアを閉めた。

自分の部屋で一人きりになった。

自分以外に誰も居ないという感覚がやってきた。

この数時間、胸に溜め込んだ怒り、悲しみ、挫折感を着ているものを剥ぎ取って床に叩きつけて、叫び声と共に、一気に吐き出した。

腸のあたりに激痛が走って、体が静かに床に沈んでいった。

(この痛みはその後一週間続いた。)

劇痛で動けない。

あゝ、これで、試験は終わったなと静かに思った。

その時、スタニスラフスキーの言葉を思い出した。
「舞台は演ずるために行くのではない。戦うために行くのだと。」

また、ストラスバーグは、
「怖いと思ったら一歩前にでろ! それがゴーサインだ。」
と。

痛みに耐え全身の力を込めてユックリと立ち上がった。

天が与えてくれたインスピレーションの大波の真っ只中に身を置いていた。

たとえ一万人の競争相手がいたとしても僕がトップだと確信した。

このようなインスピレーションがやってくると、不思議な意識の分裂を経験する。

夢中になって演技している役の自分と、それを何処か高いところで見守っている自分がいる。

後者の自分が
「ゼン! お前のダンスで鍛えた美しい身体を使って、想像した鏡の前に立ち、ダイナミックなポーズを見せてやれ! これがアートだ叫んで審査員達を喜ばせてやれ! 彼等は芸術が大好きだから。」

「次は机の所に飛んで行け。拳を固めて叩いて挫折感を演じろ。彼等は又、採点するぞ。」

俳優の自分は、全力をあげて、役の人生を誠実に、真剣に生きているのに。

挫折してぶざまに、醜態をさらけ出し、ボロボロになった男を、いつのまにか、戸口に立った北欧の美女が静かにジーとこちらを見ている。

又、審査員の同情を買って採点されている。

涙を誤魔化す為、隈取り用のハンカチを探したが、係りが、置き場所間違えた為、僕は必死になって探した。

舞台で実生活と同じレベルで行動できるのは稀なる幸運だ。

又、採点される。

夢中に役を演じながら同時にどこで採点されるかをすべて知っていた。

「Zen Thank you」
の声がして演技を終えた。

十数人あまりの審査員が、こちらを見ている。

戦いは終わった。

何か、とめどなく悲しい気持ちがした。

オーディションは二度と受けないと思った。

待合室に降りて行くと、二人ほど審査員が興奮気味に駆け下りてきて、
「もう少し待っていれば、ストラスバーグから直接話があるだろう」
と言われた。

しかし、荷物をまとめ、何か、もの悲しい気持ちで、ひとり暗闇のニューヨークの街に消えて行ったことを記憶している。



そして、僕は教師の道を選んだ。

いま、考えるとメンバーになったことで、大きく人生の方向が変わって行った。

怖いとと思ったら一歩前に出よう!
それがGOサインだ。
それがあなたの人生を変える。

今回、ここでみんなに伝えたいのは、千人に一人の最終試験で何故3日で合格したかである。

今、活躍しているアル・パッチーノーやデ・二ーロがメンバーになるまで、何年もかかっている。

僕の好きなハーヴェイ・カイテルは、10年かかったと言っている。

もちろん一回で受かることに価値がある訳ではない。

ストラスバーグは、彼達が受けるたびに確実に、成長して言ったと言っている。

それでは、僕は何故3日でメンバーになったのだろう。

当時 、たまたま、他人に引っ張りこまれたため、この世界に全く無知であった。

生まれて初めて強引に、演出の絵の字も知らなかったのに、演出させらて、スタンディング オーベイションにあったり、演技を絶賛されてたりした。

しかし、メンバーになりたいと思いもしなかった。

何が何だか断る理由も見つからず、最終試験を受ける事を同意した形になった。

合格して、翌日のクラスで、ストラスバーグが、メンバーのみんなに紹介したときに、
「ゼンはメンバーになった意義を自覚していないだろう」
と言っていた。

ありがたい、とも思わず、全く何のことか自覚がなかった。

では、他の俳優達が、何年もかけてやっとメンバーになるのに、なぜ、3日で受かったのだろう!

ここに、声を大にして伝えたいことがある。

ストラスバーグの俳優の基本訓練法の最重要課題をマスターしていたからだ。

スタニスラフスキーからストラスバーグに受け継がれた俳優訓練を完璧にマスターしていたからだ。

ひとつは五感の記憶の課題の一つ、プライベート モーメントである。

舞台に上がって、他人の目をいかにシャトアウトできるかだ。

このエクササイズは、ストラスバーグの貴重な、偉大なる発見だと思う。

彼は、ひとの目を一切気にしない場所はどこかと考えた。

自分の部屋であると。

頭で考えるのではなく五感の記憶で自分の部屋を信じられるまで、徹底して訓練してみようと決心した。

街を歩いている時も何時も自分の部屋と一緒に歩いた経験を思い出す。

この公開の孤独と呼ばれる アプローチは、自分の人に見せたくない事をメンバーの前で、やって見れば、成功したかどうか、すぐわかる。

僕はこの訓練の成否を確かめてみたかったために、素っ裸になってみた。

なんの抵抗もなかった。

アクターズ スタジオ歴史上、人の目を一切気にしないで、素っ裸にになれたのは、僕が初めてだと言われた。

嬉しかったと思う一方、終って恥ずかしっと思った。

ストラスバーグに対する恩返しだ。

(アクターズ・スタジオでは、このような基本的訓練は、一切やらない。彼の個人のクラスのみ)

最終試験の舞台に上がったときに、自分の部屋の黄色い床が見えた。

生まれて初めての最終試験なのに、何の抵抗もなかった。

大勢の審査員が見えているのに、何の抵抗も無く、怒り、悲しみ、挫折感を、そして、自分の全てをさらけ出すことが出来た。

ストラスバーグの発見した偉大なるエクササイズだ。

もう一つ最重要なエクササイズは、感情の記憶である。

自分の過去人生で一度か二度体験した悲劇的な感情を1分以内に思い出す訓練だ。

僕はこれもマスターしていた。

具体的な感情の記憶の訓練方法は、この一年の河口湖合宿クラスで、全員に修得させたいと思っている。

ストラスバーグは言った。
「我々の訓練はオールド ハット、つまり、使い古された帽子だと言われる事もある。しかし、我々は演劇の本流泳いでいるのだと。」

40年間、アクターズスタジオのクラスに一度も遅刻しなかった彼の演劇に対する情熱に、熱いものが込み上げてくる。


NY ザ アクターズ・スタジオ
正会員
ZEN HIRANO

みんなで瞑想を始めよう ~№3~


画像に含まれている可能性があるもの:1人、スマイル、帽子、飲み物

今回は、みんなで瞑想をスタートさせる取り決めについて話したいと思う。
まず、この瞑想グループのタイトルは、
『グループ イレブン ヒフティーン ミニッツ』
(夜、11時に15分間 瞑想を行うグループと言うことになる。)
演技の役作りの五つの法則に従って、
*いつ :毎晩、夜の11時に
*どこで:自分の部屋等、静かな場所で
*誰が:自分一人かグループで
*何を:瞑想を
*いかにしたか:吐く息、吸う息に集中して
息を吸って、私は静か、
息を吐いて、私は微笑む等、
各自の自由な発想で自分の内なる深みに入っていく。
このグループ イレブンに参加する人は、名前を登録する。
(偽名でも、ニックネームでもOK 、但し毎日か、週に5回はやろうと決心した人。)
自分一人ではない、みんなと一緒にスタートするのだとの連帯感を大切にするため。
スタートするにあって、
「レッゴー、ゴー、ゴー 、ゴー 、グループヒフティーン!」
と掛け声を上げる。
具体的なスタート日程は、1月15日を予定。
書籍『神との対話』に
「あなたの求めている答えは、あなた自身の中にある」
と。
NY ザ アクターズ・スタジオ
正会員
ZEN HIRANO