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2017年12月7日木曜日

第1回 ザ・アクターズスタジオと恩師リー・ストラスバーグの思い出


まず、僕自身バツグンに記憶力が悪いので、記憶に頼ることを諦めた。

それに引き換え、スタニス・ラフスキーや恩師ストラスバーグの記憶力は驚異的である。

ストラスバーグとロスアンジェルスの古いレコード(78回転)を棚や床に無差別に置かれた店で一緒に買っていた時に 、一人の高齢の男性が入って来て、これこれのレコード探しているのだがと尋ねていた。

店主は、「それは分からないね」と首を横に振った。

すると棚にかけられたハシゴの上からストラスバーグは、指差して
「あの棚の何段目の真ん中あたりにあるよ。」
と。

驚いた。

またある時、 ニューヨーク のビレッジにある古いレコード専門店で確か、数十枚のレコードを購入した。

多分、店員が入れ忘れたのだと思うが、数日後店に戻って、これこれのレコードが足りないと言って、十数枚のレコードのタイトルをすべて店員に伝えた。

驚いた!

いったい、この人の頭の構造はどうなっているのだろう?

十分の一でも授かりたいと思った。

又、レコードの話になるが、毎月、一回、車で一時間半ほどのロングアイランドにあるレコードディーラー の所に必ず僕を連れて出かけた。

ディーラーが送り迎えをしてくるのだが、その間二人でレコードの話で 持ちきり、レコードに記された番号まで言い合って、ただでさえ英語が不得意な僕にとってまったく、意味不明だった。

ディーラーの家に着くと、彼の奥さんがいつも、ランチを用意してくれた。

多分、それが僕の一番の楽しみだったかもしれない。

(最後に行った時に、ランチはなかった。奥さんは居なかった。交通事故で息子と共に他界したとの事)

彼は、何事も無かったように我々に伝えた。

我々を送り届けて、ひとり自分の家に帰ってきた彼の姿を想像すると、今でも涙が込み上げてくる。

ストラスバーグは、全米で五本の指に入るレコード蒐集家で全て78回転のレコードのみだ。

その理由はたぶん現代は偉大な音楽家は存在しないからだと思う。

僕も蓄音機でカルーソー(110年前の録音)を聴くが、二度とこのような偉大な歌手は、存在するはずがないと思う。

偉大なものは自然現象と同じく沈黙を強いる。

拍手をするなど毛頭思えない。

カルーソーのみならず、ハイへッツ、カザルス、シャリアピン、トスカニーニ、数え上げたらきりがない。

昔は海外演奏と言ったら何週間も船に乗り、波に揺られ太陽の浮き沈み、満天の星を目の当たりにし、人生は50年と言われた時代。

今、生きているという生命の尊さを実感したのだと思う。

生命の尊さ、神に対する畏敬の念と感謝、そこから偉大な芸術が生まれる。

現代には、沈黙を強いるような偉大な芸術は、いっさい存在しない。

演奏旅行といえば、一晩飛行機に乗って莫大な金銭を手にする時代に偉大なアートが生まれるはずがない。

又、俳優にしても、昔は毎晩舞台に立たなければ、お金は貰えない。

今は、一本映画に出演すれば何億というお金が入る。

名優が生まれるはずがない。

もし、現代で偉大なものを後世に残したかったら戦争をやめることだ。

それに引き換え各国は、自分の国の新兵器の開発に血眼になっている。

戦争を止めるには、どうしたらいいかを彼らから一言も聴いたことがない。

ZEN