2018年1月6日土曜日

俳優を目指す若者たちへ


前回に続いてジュンイチの質問に答えることにする。

質問2)
レッスン費が高すぎるのではないか?

「何を馬鹿なことを言っているのだ。高いと思ったら受けなければ良い。」
ただそれだけだ。

安いから受けようとしたって身につくはずが無い。

みゆきのプライベート レッスンは、高額だ。

受講者は、毎回眼の色を変え教師と真剣勝負だ。

そこに成長がある。


昔、前妻、伊藤ヨシとニューヨークで生活していた頃、朝晩、日本レストランで働いて、空き時間に、僕はダンスに、ヨシは歌の個人レッスンに駆けつけた。

収入の殆ど全てをレッスン費につぎ込んだが、高いと思ったことはない。

又、ストラスバーグの個人のクラスを受けるために、(彼は、半年ニューヨーク、半年はロスアンジェルスで、クラスを開いていた。それに合わせて)僕は半年日本で仕事をして、半年彼のクラスを受けるために、ニューヨークに駆けつけた。

10年間続けた。

今、考えてみると、ニューヨークでの半年間の滞在費、食費、雑費、レッスン費は大変な額になったと思う。

三年ほど経った時、ストラスバーグに
「もうレッスン費を払わなくていい」
と云われた。

貴重な教えを受けるのに、無料など考えられない。

もちろん最後まで払い続けた。

又、ストラスバーグに、
「ゼンは全てをマスターしたから、もう来なくてもいい 」
と、云われた。

でも、彼の最後の日まで、通い続けた。

(ここで断っておくが、僕の一番の才能は演出能力であり、二番目は演技能力であり、三番目は教師としての能力だ。次の機会に述べることにする。)

殆ど、全ての運動選手、音楽家、ダンサー等の分野では、訓練方法が確立されている。

俳優の訓練は、てんでバラバラで確立されていない。

何をどう訓練したら良いかわからない。

ストラスバーグから聞いた話だが、
「むかしの名優と言われる人が、生涯忘れがたい演技を観客は目の当たりにしたが、次の晩は何も起こらない。霊感に見放されたのだ」
と。

どうやってこの問題を解決出来るかを模索し、探求したのがスタニスラフスキーであり、ストラスバーグだったと思う。



演技には、二つの事が要求される。

信じる事と、信じたことを繰り返す能力だ。

アートとは、不思議だ。

実際に熱烈に愛し合ってる二人を舞台に上げてもアートにならない。

いつも自分を大根役者呼ばわりしている相手に、想像力で恋に落ちれば、アートになる。

しかし、殆どの俳優は恋に落ちたフリをする。

それでは、具体的にどうするかと言えば、頭にあるあなたの恋人の記憶を相手役に移していく。

(エクササイズ パーソナリゼイション)

相手役の目の中にジットあなたを見つめている恋人のまなざしをみる。

髪型、肌の色、ちょっとした仕草等に、恋人をオーバーラップさせる。

基本的な五感の記憶の訓練を身につけていれば意外に簡単に出来る。

人は皆恋に落ちたがっているからだし、特に俳優は想像の世界に入り込みたいと強く、望んでいるからだ。

ワンシーンは大体15分、つまり、15分恋に落ちれば良いということになる。

しかし、10回中9回できなければプロだと言えない。

想像力に優れた俳優がいたとしても、明日も必ず信じられるという保証ない。

そこで、この五感の記憶の訓練が必要となる。

「頭にあるものを目の前に置くのだ」
とストラスバーグは言っていた。

もう一つ俳優にとって大切なことは、考えたこと、感じたことが人間本来の自然のコースを通って外に表れやすい事だ。

社会生活では、常に自分が考えた事、感じた事にブレーキをかける習慣がついて回る。

此の習慣が付いていない子供をみるといい。

何を考えているのか、何を感じているのか手に取るように分かる。


今晩、ウッピー・ゴールドバーグの映画「カラー パープル」を観たが、人間の心の多様性、意外性を見事に表現できる体(我々は楽器と呼んでいる)を持っている。

ちょっと観るつもりだったが、長時間最後まで彼女の表現力に惹かれて観てしまった。


ジュンイチのレッスン費が高いという課題から外れてしまったが、無料で教える教師はいる。

それは、あなた自身だ。

スタニスラフスキーの本も出ているし、映画もビデオもある。

徹底して自分と向き合い、演技とは何かを自分自身に問いかけ続ければ、答えは見つかる。

毎朝5時に起き、エクササイズをすることだ。

ZEN


五感の記憶の訓練の種類
1)カップ
2)鏡
3)太陽
4)味,匂い
5)聴覚
6)お風呂
7)シャワー
8)強い痛み
9)オーバーオール
10)好きな人、嫌いな人
11)思い出の品
12)思い出のの場所
13)酒
14)複合
15)アニマル エクササイズ
16)プライベート モーメント(公開の孤独)
17)燃え上がる記憶(感情の記憶)

在、アメリカでこのエクササイズ全てをデモンストレーション出来る俳優はいない。

出来るのは、ミユキと僕だけである。

近々、全てのエクササイズの実際をビデオに撮り、ストラスバーグの生涯をかけたこのエクササイズの遺産を後世(まずはアメリカの俳優たちに向けて)に残したいと決意している。