2017年3月19日日曜日

第十四回 『神との対話』のすすめ

僕の嫌いなものは、
1) 飛行機
2) バンジージャンプ
3) ジェトコースター
1) 飛行機が嫌いで、オートバイで40日間かけてアメリカ大陸横断をした。恩師ストラスバーグが他界してすぐにニューヨークを離れ、氷で転倒したり、砂漠で砂嵐と戦ったりして。
2) バンジージャンプ。橋の上で下を覗くだけでも怖いのにロープ一本で飛び降りるなんて! 縛り忘れたらどうする。橋から飛び降りるなんて死にたい人のためだ!
3) ジェトコースター。河口湖の富士急ハイランドの近くに住んでいるが、お金を払ってまでもあんな思いをするなんて気がしれないと思っている。
しかし、生徒には
「怖いと思ったら一歩前に出ろ 。それが人生を変えるチャンスだ」
と常々言いきかせている。
但し、上記の3つは無視して良いと。
以前テレビで素晴らしい番組を観た。
激流を一人、ゴムボートに乗って下りきるドキュメンタリー番組だ。
危険な滝や、岩、渦巻きと自分の持っている力の限りを尽くして、闘って、闘って、それでも水中深く引き込まれ揉みくちゃにされる。
もうダメだと手にしたオールを投げ出し闘いをやめたその途端、実人生で経験したことのない、静けさ、安心、暖かさに包まれたという。
人間て、死力を尽し全力で何かに立ち向かった時、神からの授けものインスピレーションがやって来るのだと思う。
インスピレーションと云えば、私ごとになるが、昔ニューヨークに住んでいた頃の話。
ザ・アクタースタジオのオフィスから、最終試験を受けるように言われた。
通常、最終試験にたどり着くのに4、5年掛かるのに、冗談でなく試験日の3日前のことだった。
(それまでに、スタジオで行った演出と演技を評価されたのが要因だと思う。当時、年間1,000人以上の受験者の内、合格者は1人か2人。)
「YES」と言って、今考えると無謀にも一歩前に出た。
相手役には、当時の雑誌の表紙になり、彼女の美しさは心の美しさと紹介された北欧の美人アルバが協力してくれた。(スタジオには美人がいない。一切容姿で取らないから。マリリン・モンローとアルバは例外。)
3日間のリハーサルは無残。
何1つ掴めないまま過ぎてしまった。
当日は、不安から試験の5、6時間前に行ってしまい、スタジオの片隅でじっと蹲っていた。
アルバが巫女のように僕の前に立ちはばかり、興奮した他の俳優達が僕に話し掛けるのを防いでくれた。
無味乾燥な時間が刻々と過ぎて行った。
徹底して追い詰められた。
苦しかった。
その時ふと、ある考えが浮かんだ。「僕は、何故、ここで、こんなに苦しんで待っているのだろう。勿論試験を受ける為だ。しかし、僕の演じる役は、何故、こんなに苦しんで待っているのだろう?」と。
そこから、想像力に火がついた。
(僕が、演じる役は、映画さよならからの歌舞伎俳優の役だ。)
役の世界に入り込んで、自分とひとつになっていった。
【役は(僕は)、先週、これが芸術のあるべき真の姿だと確信して、新しい形を舞台で表現した。上司達はそれが気に入らなかったらしい。
今日は給料日、上司は(審査員)は、一人一人名前を呼び、呼ばれた者は、二階のホールに上がって行く。ほおら、又、一人降りてきて、また一人呼ばれて上に上がっていく。
僕は幹部俳優なのに其れを知っているのに延々と僕を待たしている。
3時間も、4時間もだ!
役の人間としても、僕自身としても、こんな所に1分も居られない。ドアーを蹴破って出ていって、二度と戻る気はない! しかし、妻が病気で入院している。今日どうしてもお金を持っていかなければ!】
僕の想像力は、高く、遠く羽ばたいていった。
その当時までには、かなりの演技力を体得していて、一生に一度か二度体験した事のある、深い悲しみの感情を意識的にこの場で起させることが、出来るようになっていた。
その事件に集中し始めると、直ぐさま強烈な感情がやってきた。
(前々からストラスバーグに、「ゼンは非常に強い感情を持っている」と、指摘されていた。僕が怒りを爆発させると、7、8人の屈強な男たちが舞台の外へ逃げて行くのを何度も経験した。不思議に思った。俳優は命なんか要らないやと思わなければ相手を動かせないと思っている。)
感情を確かめる為に、ふっと息を吐くと胸が焼け、ドラゴンが火を噴いているようだ。
普通このような激情をキープできるのは15分だと言われる。しかし、僕の名前が呼ばれるまで、30分以上待たなければならない。
苦しかった。
感情が消えてしまわないようじっと耐え続けた。
ようやく名前を呼ばれ、階段を駆け上がった。
「ゼン・ヒラノ」
叫んだのを今も記憶している。
想像のドアーを両手で横に押し開くとニューヨークのアパートの黄色味がかった床がみえた。(プライベイト モーメントという訓練のお陰で、自分以外に誰もいないと云う感覚がやってきた。)
ドアーを閉めた。
自分の部屋で一人きりになった。
この数時間、胸に溜め込んだ怒り、悲しみ、挫折感を着ているものを床に叩きつけて一気に吐き出した。
腸のあたりに激痛が走って、体が静かに床に沈んでいった。
(この痛みはその後一週間続いた。)
あゝ、これで、試験は終わったなと静かに思った。
その時、スタニスラフスキーの言葉を思い出した。
「舞台は演ずるために行くのではない。戦うために行くのだ」と。
また、ストラスバーグは、
「怖いと思ったら一歩前に出ろ! それがゴーサインだ」と。
痛みに耐え、全身の力を込めてゆっくりと立ち上がった。
天が与えてくれたインスピレーションの大波の真っ只中に身を置いていた。
たとえ一万人の競争相手がいたとしても僕がトップだと確信した。
このようなインスピレーションがやってくると、不思議な意識の分裂を経験する。
夢中になって演技している自分と、それを何処か高いところで見守っている自分がいる。
後者の自分が
「ゼン! お前のダンスで鍛えた美しい身体を使って、カガミを想像し、その前に立ち、ダイナミックなポーズを見せてやれ! これがアートだ!と叫んで審査員達を喜ばせてやれ。彼等は芸術が大好きだから。」
「次は机の所に飛んで行け。拳を固めて叩いて挫折感を演じろ。彼等は又、採点するぞ。」と。
俳優の自分は、全力をあげて、役の人生を誠実に生きているのに。
挫折してぶざまに醜態をさらけ出し、ボロボロになった男をいつのまにか、戸口に立った北欧の美女が静かにジーとこちらを見ている。
又、審査員の同情を買って採点されている。
夢中に役を演じながら同時にどこで採点されるかを知っていた。
「ゼン、サンキュー」
の声がして演技を終えた。
十数人あまりの審査員が、こちらを見ている。
戦いは終わった。
何か悲しい気持ちがした。
オーディションは二度と受けないと思った。
待合室に降りて行くと、二人ほど興奮気味に駆け下りてきて、
「もう少し待っていれば、ストラスバーグから直接話があるだろう」
と言われた。
しかし、荷物をまとめ、何かもの悲しい気持ちで、ひとり暗闇のニューヨークの街に消えて行ったことを記憶している。
いま、考えるとメンバーになったことで、大きく人生の方向が変わって行った。
怖いと思ったら一歩前に出よう!
それがGOサインだ!
それがあなたの人生を変える。
ZEN
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