2017年9月13日水曜日

第六章 俳優を目指す若者たちへ

~五感の記憶の訓練~

風呂 昔の話になるが、サイドカーに跨って東北にワイフとツーリングに出掛けたことがある。

途中、空模様が怪しくなりそのうち雪が降り始め、暗くはなるし寒さで手足はかじかんで、息を詰め寒さにひたすら耐えて横滑りするサイドカーをなんとかコントロールして走り続けた。

何軒かのホテルに立ち寄ったが、あいにくどこも満杯で、このまま走り続けたら命が危ないと途方にくれていたその時、古ぼけた民宿を見つけて飛び込んだ。

空き室あり! 

古ぼけたタイル張りの浴室だったが、凍えた体を湯船に浸した時の、あの経験は一生忘れることはない。

これが天国だと思った。

この経験を頭の記憶ではなく、再体験するには、体全体に伝わってくるエンジンの振動、凍てつく寒さ、疲労感、身体全体を包み込むお湯の暖かさを肌で思い出す必要がある。


トップクラスの演技を見せるには、
今ここで、観客の前で、上記の体験を刻々と肌で感じ表現することにある。

よって、神経系統を含め、身体全体の皮膚感覚を、想像の刺激に対して敏感に反応出来るよう訓練する必要がある。

五感の記憶によって想像の世界を追体験するのだが、この訓練のアドバンテージは現場で、何度も繰り返し体験が出来ることである。

演技に要求されることは、信じること、
その信じた事をくりかえす能力である。

そのために日々の訓練が必要となる。

肌は覚えている。

それを皮膚感覚で思い出させてみよう。

ZEN