~第5話~
(前回よりつづく)
スタジオの門をくぐると、メンバー達が興味津々寄ってきて、一階の各部屋全てを案内し、トイレまで見せてくれた。
アクターズ・スタジオは、教会を買い取って設立され、スタジオは、2階にあって、後半分は、ひな壇状の客席になている。
(アクターズ・スタジオは、世界的に有名なのにあまりにも狭い場所なので皆びっくりすると言う)
最前列の真ん中に、ストラスバーグが座る事になっている。
見学者は最後部席、ステージはなく、平土間で俳優達は演技をしてみせる。
プロデューサーや演出家は、完全にシャットアウト。
(俳優が、自分の抱える問題に正面から立ち向かえるように)
俳優にとって世界一神聖な場所と言われた。
百人以上のアカデミー賞受賞者を出したこの場所は、一時は、奇跡の場所と噂され、何か秘密兵器があるのではないかと噂されたこともあった。
スタジオは、出来ることをやって見せるところではない。
プロの俳優達が、自分ではどうしても解決できない演技上の問題を持ち込んで、ストラスバーグのサゼッションを仰ぐ場所である。
一流になればなるほど、演技に対して高度に、且つ、微妙な問題を抱え苦しむ。
ストラスバーグ曰く、
「問題は、今日解決するかもしれない。又、5年後かもしれない。でも、必ず解決してみせる。」
と。
「問題は、今日解決するかもしれない。又、5年後かもしれない。でも、必ず解決してみせる。」
と。
当時、そんなことを全く知らない僕をメンバー達が、最前列のストラスバーグの隣に座らせてしまった。
ストラスバーグが、ジロッと僕を見た。
何も言わなかった。
何を喋っているのか、英語も分からなかったし、別に興奮もしなかった。
(感じられなかったのかもしれない)
今、考えられる理由は、当時、ハンサムで(自分では気が付かなかった)、スリムでダンスで鍛えた抜群のスタイル、静岡生まれで、有名になろうなんて全く考えていなかったせいかも知れない。
メンバー達は、「星の王子さま」が降り立ったと思ったのかもしれない。
何年か経った後、アルバという北欧の絶世の美人(スタジオは才能を探していて容姿を一切考慮しないので、美人は稀)に、「星の王子さま」を一緒にやろうと持ちかけられた。
ママゴトみたいなひどい演技で、ストラスバーグは、後頭部を掻きながら(彼の不機嫌な時のくせ)手厳しい批判を受けたことを思い出す。
当日の2時間のクラスが終わると、ストラスバーグはいつもの通り一言も口を聞かないで、サッサとスタジオを後にした。
やっと解放されて、急いで外に出ようとしたら、又メンバー達が僕を掴まえて、
「ゼン、今、子供のためのクリスマスのプロジェクトをやっているから参加するように。参加すれば、スタジオの見学を続けられる。」
と有無を言わさず強引に引っ張り込まれた。
「ゼン、今、子供のためのクリスマスのプロジェクトをやっているから参加するように。参加すれば、スタジオの見学を続けられる。」
と有無を言わさず強引に引っ張り込まれた。
記憶していることは、僕が、雨傘に隠れるたびに、子供達が興奮して大喜びだったことを思い出す。
翌日、雨傘を剣に見立て戦っている僕一人だけの大きな写真が、ニューヨーク タイムズ紙に載っていた。
これが、アクターズ・スタジオとの関わりの第一歩だった。
ZEN