2021年2月20日土曜日

アクターズスタジオの思い出


 全てのパフォーミングアート

声楽、楽器、ダンス、演劇等々は

ステージで、又は、映像を通して観客に伝える仕 事である。


演劇を除いて、訓練方法がはっきりと確立されている。


例えば歌手が音を外せば、誰でも分かるし嘘をつけない。



以前、ニューヨークのメトロポリタンオペラハウスで、

百人ほどのオーケストラの一人が場違いな音を出し、

観客が飛び上がるほどのショックを目撃したことがある。


又、ダンサーが回転しそこなって、転べば、誰だってわかる。


ごまかしが効かない。



しかし、俳優の場合、嘘をついて誤魔化すことができる。


芸術に対する感性が非常に高い日本人が、

演技に関してのレベルが低いのは驚きだ。


僕が日本の俳優で、

唯一アクターズスタジオの俳優たちに見せたいと思ったのは、

映画『王将』で

阪東妻三郎の対戦相手に手作りの草鞋を差し出すシーンだ。


是非、観て欲しい。


演技の問題は、嘘をついて誤魔化すことができる。


(アカデミー賞受賞者にはおおむね皆無)


今も昔も、活躍している俳優たちは、

感じたフリをするのではなく、

体験の演技だ。



想像の世界で役の人物の喜怒哀楽を実際に体験する。


想像の世界で実際に胸をときめかし恋に落ちる。


殺意を感じて相手を殺す。


100分の1パーセントの意識があれば

実際に相手役を殺すことはないし、

病院に運ばれる事もない。


僕も、アクターズスタジオで、

ギャング役で、

相手役の体すれすれにアルミの椅子を投げつけたことがある。


相手役は、真っ青になって動けなくなった。


又、エリヤ・カザンガ、

主役に選んだ舞台女優がいたが

、僕と是非、演技をしたいと申し込んで来て、

スタジオのメンバーの前で演じたが、

二人ともひどい演技で話にならなかった。


3年経って彼女が、もう一度同じ作品をやろうと言って来た。


その前の晩、

エリヤ・カザンが、

たった2人のリハーサルを豪雪の日に観にやって来た。


演じてみせたが無残だった。


カザンは、2、3回拍手して何も言わなかった。


そして僕は、気がついた。


感情の強さはストラスバーグに常に指摘されたが、

その感情に火をつけ忘れたのだと。


トップクラスの女優の静かに延々と続くモノローグのあいだで、

ダンスと五感の記憶の訓練で鍛えた体をフルに使って

想像力を爆発させ、演じきった。


ストラスバーグのコメントも、

メンバーの反応も何一つ耳に入って来なかった。


演技を終えて、

近くの喫茶店で、彼女と向き合って腰を下ろした。


彼女は、静かに今ににも舞い上がるかと思われる

天使のように微笑んでいた。



人生は、課題に向かって全力で燃え上ればいい。



NY ザ アクターズ・スタジオ

正会員

ZEN  HIRANO

(年を重ねると、思い出に浸りやすい。聖路加の院長、日野原さんのように少しでも、人々に役立つ仕事をしたいと願っている。)