~第14話~
当時、ストラスバーグの息子のジョンのワイフ に頼まれて、ブレヒトの作品の一場面を二人で演じることになった。
ブレヒトのプレイで、僕の役は失業したパイロット。
公園で自殺する場面である 。
舞台上で、公園を感じる為にセントラルパークに何度も、何度も通った。
公園は広いスペースだ。
歩くと落ち葉が、ガサガサと音を立てる。
大きな木、小さな木、いろいろな種類の木が点在している。
当日、舞台に上がった時に、僕は人気のない公園に立っていた。
と同時に、メンバー達全員が僕を見つめているという分裂している意識もあった。
僕の中に強い決意があった。
この場で、絶対に死んでやる。
メンバー達全員が一生忘れないような、素晴らしい死に方を見せてやると決心した。
ヒコーキが音を立てながら公園の上空を横切る。
「あいつらパイロットは、賄賂を使って飛んでいる。チクショウ! 絶対に死んでやる。思い知らせてやる!」
先ず、首を吊るにふさわしい美しい樹を見つけなければ!
ダンスで鍛え、太極拳で鍛えた身体に、五感の記憶で習得した能力の全てを動員して、想像上のロープを目指した枝に向かって高々と投げつけた。
スタジオのホリゾントのレンガ塀を駆け登って、ロープの輪に首を突っ込んだ瞬間、枝が折れた。
地面に叩きつけられた。
「チクショ ー!絶対に死んでやる」
と大声で叫びながら、ロープの輪に首を引っ掛けたまま、二本の木の幹にロープを廻し、片足を大地に、片足を幹に踏ん張って、全身の力でロープを引っ張って死のうとした。
と大声で叫びながら、ロープの輪に首を引っ掛けたまま、二本の木の幹にロープを廻し、片足を大地に、片足を幹に踏ん張って、全身の力でロープを引っ張って死のうとした。
どんな事をしても死にたかった。
(舞台で生きるのは、いつも命がけ)
そこに相手役の娼婦が、にやにやしながら
「あんた、何しているの?」
とセリフを投げかけ、近づいてくる。
「あんた、何しているの?」
とセリフを投げかけ、近づいてくる。
僕は、相手を手招きして引き寄せ、いきなり抱きしめ、キスして地面に突き飛ばした。
(このことは、リハーサルでいっさい彼女に知らせてなかった。ショクを与えて
リハーサルを忘れさせ、今に、生きる為だ。)
リハーサルを忘れさせ、今に、生きる為だ。)
地面に突き飛ばされた相手役は、ショックを受けて、全てのセリフ、全ての行動は正当化され、二人とも役の人生を刻々と生き始めた。
絶望感、疲労感、寒さ、雨の冷たさ等、すべてが肌を通して蘇り、肌を通して体験した。
これを人々は体験の芸術と呼ぶ。
二人の演技は川のように流れて行った。
僕の役は疲れ果てて、彼女の膝で眠りにつく。
相手役の最後のセリフ
「雨が止んだわ」
の一言で、シーンは終わるのだが、その一言がいつ迄たっても出てこなかった。
「雨が止んだわ」
の一言で、シーンは終わるのだが、その一言がいつ迄たっても出てこなかった。
俳優として舞台で生きるという至福を、いつ迄も味わっていたかったのだろう。
ZEN